趣旨

 いま、渋谷の街に変化が起きようとしている。渋谷駅を中心とした大規模な再開発が始まり、 巨大化した駅の高層部には商業施設やオフィスが集約され、歩行者動線は整理され、高架デッキが空中を結ぶ。 全ての事業が完成する2027年には、駅周辺の姿は大きく様変わりすることになる。
 渋谷という街は、新宿とも池袋とも違う、独自のエネルギーを持っている。 この街の特性を生み出しているのは、その独特な地形によるところが大きい。 すり鉢状の地形の底に渋谷駅があり、中心から放射状に他の街へと街路が伸び、その間を網状の街路が結ぶ。 坂や細い抜け道といった微細な地形の変化は、そこに多様な文化が根付くことを許容する。 この文化の多様さが、渋谷という街の活気と、それでいてどこか危うげな空気を生み出している。
 この街を歩くと、人々はまるで河川の流れのような歩行体験をするのである。 駅より発生した人の流れはハチ公前広場で断続的にダムのように堰き止められて一時的に飽和し、 一気にスクランブル交差点へと溢れ出す。その後それぞれの個が持つ目的地へと向かって流速を落としながら流れていく。 そしてそこには流れ着く多様な個を受け入れることのできる空間がある。この空間が街に点在し、 包容力のある都市空間を形成しているのである。
 2027年、この渋谷という街の包容力はどのような影響を受けるのだろうか。 新しくできる駅ビルは人の流れを内で完結させかねず、多様な個の受け入れ先を必要としなくなるかもしれない。 一方で、その領域を四方へ広げていくようなパブリックスペースの進出は、個の新しい目的地を増やすのかもしれない。 懐の大きい渋谷という都市とこの大きな変化が相乗効果を生み出していくために、 私たちはどのようにデザインすべきなのであろうか。
 GSDWが渋谷と向き合って三年目を迎える今年。最後の一年は原点に立ち戻り、 渋谷の顔とも言える「渋谷の駅前」:ハチ公前広場及び東口広場がどうあるべきなのか、真剣に考えてみたい。 「駅前」という公共空間とまちの関わりを検討することは、この渋谷のまちの未来を考えるにあたって、 核心的かつ本質的な議論であると考える。