参加者諸君へ

 渋谷という街は住んでいたところが東横線の駅だったので東横デパートやプラネタリウムに出かけ、中学からは大学の2年まで渋谷経由で8年通い、まあ馴染みの、また青春の思い出の街です。渋谷という街は企業といえば東急ぐらいしかなく、その東急も当時の感覚でいえば三流企業で、どことなくのんびりとした学生の街でした。喫茶店、ジャズ喫茶の街でもありました。変わり始めたのはパルコが進出した頃からで、何時の間にかファッションの街となり、ギャルの街となり、ガキの街となり、歳をとった今では最も「行きたくない街」の一つとなりました。
今また渋谷は変わろうとしています。ギャルやガキの街から商業主義丸出しの街へ。こういう具合にここ60年程の変遷を振り返ってみると渋谷を商売の街と考える資本が来る人間を選別し、それ以外の人間を排除してきた歴史が浮かび上がってきます。この潮流に抗する事ができるのか、諸君が試されているのでしょう。

 今年のテーマは渋谷です。実は渋谷駅を中心とした再開発に十年近く前からかかわっています。駅を中心にすべて作り替える、という壮大な計画です。行政と企業の複雑なせめぎ合いが繰り広げられる中で、渋谷の魅力が未来にも引き継がれるように腐心している最中です。土木を中心として鉄道事業と道路事業、都市計画を中心とした区画整理と特区制度、建築を中心とした再開発ビル。これらが同時進行で入り乱れ、それも相補的な関係で組み上げられています。みなさんがこの全貌を知ることは到底不可能です。わたしだって、まだ分かっていないことがたくさんあるのですから。でも、いつも大切なことはシンプルです。みなさんのような若者を引きつける力が渋谷からなくなったら、どんな立派な街ができたところで、その計画は失敗です。渋谷は渋谷でなくなってしまうでしょう。渋谷の一番大切なユーザーであるみなさんの実感から、渋谷を議論し提案してほしい。そのなかで実際に生かせるアイデアがあるかも知れません。期待しています。